神戸市灘区を中心に住宅や店舗のリノベーションを行うIDA DESIGN(株式会社IDA Company)代表 伊田です。
リノベーションの現場というのは、新築物件とはまた違った課題に直面することがあります。
ここでは各物件ごとにそれらのお話を含めながら、現場やデザインについてお話をさせていただきます。
今回は『キッチン・ダイニング T』について
<目次>
建物について〜先祖代々、味噌や麹を作られているお家
2020年、兵庫県加西市にある先祖代々と味噌や麹を作られているお家のキッチンスペースの改装でした。現地へ訪問する前に、古い建物だという話を聞いていたので、ある程度は想像してましたが、実際、昔からあるとても広いお家でした。
> 兵庫県加西市の住宅リノベーション事例『Kitchen dining T』はこちら
そして、昔に比べると規模は小さくなったものの、今現在も引き続き製造されているので、敷地内に味噌蔵や仕込み用の大きな樽などもまだたくさん残っている状況でした。
依頼のキッチンについては、広いお家の全体感からすると若干小ぶりな印象で、ダイニングスペースも同様の印象を受けました。また、日当たりが良くなかったり、動線的にも住宅の真ん中ではない、そのようなことを改善したいというお施主さまの思いはすぐに理解ができました。
現場調査から気づいたこと〜中庭の風景を活かしたい
もともとキッチンのあったスペースの隣には倉庫があり、今は使用していないとのことだったので、そのキッチンのあったスペースと倉庫のスペースを繋げて広さを確保しようという話になりました。
その倉庫の状態を調査している途中、私は倉庫の隣りにある中庭部分がとても気になりました。お施主さまにとって、日常の景色で特に気にとめておられませんでしたが、私にとってはこの家の中で一番興味を惹かれました場所でした。
そのことをお話するとびっくりされていましたが、私の中ではこの景色を取り入れたキッチンダイニングを作れたら、ご家族にも来客者にも楽しんでいただけると思いました。
そのような考えでキッチン自体のプランニングと、この中庭の景色を取り入れる提案書も作成し、お話させていただきました。
1つ目の悩んだ点〜新しいキッチンと古民家の中庭をどう融合させるか
中庭の景色にこの家らしさの魅力を感じ、取り入れる提案をさせて頂いている一方で、悩んでいる部分もありました。
それは、今回新しくするキッチン・ダイニングと、古民家の中庭景色をどのように調和し融合させるのかということ。
打合せを重ねるたびに現場でヒントを持って帰ろうと思っていました。
結果として決めたことは、ダイニングの外側にデッキ部分を作り、デッキ越しに中庭の景色が見えるプランです。
デッキ部分というのは、実際の動線としても中のダイニングと外の中庭をつなぐ部分ですし、新しくきれいにしたキッチン・ダイニングの部分と、古い空気感の中庭をつなぐボーダーとしての役割を持たそうと考えました。
そしてそのデッキ部分に工夫をしようと思いました。素材はタイル・石にしました。その石もある程度リズムよく並べるのですが、素材自体は少しいびつな正方形で、手作り感があり、少し欠けたようにみえる感じ、また色もベタッとした感じではなく色ムラのあるものを選びました。
そのことで、「新しくて規則正しく並べられているけれども、なんだか味わいのある空気感」を目指し、新しい空間と古い空間をつなぐ役割をもたせたのです。
2つ目の悩んだ点〜アメリカからサイズオーダーした木製サッシ
もう一点、大きく悩んだのが、そのダイニングとデッキ部分をつなぐサッシです。
通常サッシというとアルミサッシが多いのですが、今回は木製のサッシを採用することになりました。木製のサッシとなると、断熱の問題や、防水、耐震など、クリアしないといけないことがあることを考慮して、最終的にはアメリカからサイズオーダーのサッシを輸入する方法をとりました。
その場合の問題点としては、輸送コストが高くなるという事と、納期が多めにかかる事です。その解決方法としては、大きなサッシだったのですが、オーダーで輸入するサッシを限定し、そのオーダーサッシの両側にあるフィックスのガラス窓は、うちの大工さんとガラス屋さんによる現場制作のサッシを取り付けることでした。一見すると、一体の木製サッシのような仕様になったことで、全く違和感なく、さらにコストと納期の問題を解決できました。
現場を終えて
このように、現場の職人さんたちの苦労もあって無事完成したのです。最終的にはデッキ、サッシを含めうまく繋がったものができたと思います。キッチンも造作で作った現場なのでいろいろと想いはあるのですが、デッキ部分とサッシに関しての苦労が多かった分、印象に強く残っています。何度もスケッチを書き、現場の職人さんたちと議論を重ねて作り上げることができました。
お施主さまにも、来る人来る人感動してくれるとおっしゃっていただき、とても嬉しくおもっております。