JOURNAL

『鮓 小桜』の現場をふりかえる

神戸市灘区を中心に住宅や店舗のリノベーションを行うIDA DESIGN(株式会社IDA Company)代表 伊田です。今回は私が独立後、会社設立間もない頃に設計施工をさせていただいたお寿司屋さんのお話です。

鮓 小桜(神戸市灘区)


お店について

オーナーさまは新規でお店を開業する若大将で、ちょうど私と同年代だったと思います。出店される物件の場所は神戸市灘区で、地元では有名なお寿司屋さんがあったところでした。

> 神戸市灘区の店舗事例『鮨 小桜』はこちら

元のお寿司屋さんは、私の地元ということもあって偶然にも私の祖父が通い詰めたお店でした。当時祖父はすでに亡くなっていたのですが、元のお寿司屋さんの大将と奥さまがそのお話をしてくださいました。テナントオーナーとしての元のお寿司屋さんの大将と、今回新たに出店を計画されている若大将、そして私とで話を交えながら、新規店舗の改装プランを練っていくことになりました。

祖父との邂逅

鮓 小桜(神戸市灘区)

打合せを重ねプランが固まり、解体工事で元のカウンターを撤去することになりました。ところが、このカウンターが非常に頑丈に作られていたため解体に苦労していたところ、元のお寿司屋さんの大将が現れ、こんな話をされました。

「そのカウンターはあなたのおじいちゃんが作ったものや」

私の祖父が長年、大工として地元でたくさんのものづくりをしてきたことは知っていました。今回のカウンターについては、資料が残っていなかったため知りませんでした。予想もしない祖父との邂逅でした。その話を聞いた新店舗のオーナー若大将が、そのような物語のあるカウンターはぜひ残したほうが良いと言ってくださいました。

そんな経緯があったので、解体後、破棄せずに一旦きれいに保管しておくことにしました。お寿司屋さんのカウンターとあって良い素材を使用しているので、カウンター奥の魅せるディスプレイ棚として再利用することになりました。

なお、この経験があったのでその後のリノベーションの現場でも、今あるものを活かしたり、形を変えて使ったり、その裏にある思いやストーリーを受け継ぐことを大切にするきっかけになったと思います。

デザインについて

鮓 小桜(神戸市灘区)

今現在は、アイデアと平行して作り方や施工図、概算予算の検討もしながら進めていくのですが、当時まだ独立間もない状態で経験値が浅く、アイデア先行型で精一杯だった記憶があります。

ありがたいことにそんな私のチャレンジを受け入れてくださるオーナーさまだったので、いろんなアイデアを出させていただきました。そんなアイデアの一つ、お寿司屋さんの象徴でもあるカウンターを天井まで帯のように伸ばし構造物をつくるという提案が実現することになりました。

最終的にはモルタルで仕上げることになり、作り上げるまでにはいろいろ困難もありましたが、お店の特徴のひとつになったと思います。

苦労した点

鮓 小桜(神戸市灘区)


飲食店の設計ではよくあることですが、この現場でも「高さ」について悩みました。今回はお寿司屋さんなので、カウンターに座るお客さんが、内側にいる職人さんとコミュニケーションの取りやすい高さや、職人さんの手元が見える絶妙な高さあるとか、逆に見せないほうがいいシーンなど。さまざまな要素をカウンターの高さにあわせて計画・調整する必要がありました。それ以外にも、飲食店なので内側の厨房部分には排水が必要となり水勾配の確保が必要、などといったことも高さを決める要素となりました。

工事で変えることができる高さとできない高さ、また、変えることはできるが費用が多くかかってしまうことがあったり。それらの要素を調整した結果、今回は道路面より約30-40cmほど店内の床を上げる計画となりました。

店内の床を上げる場合、単純に階段状の段差を設ければさほど悩むことは無いのですが、地域柄、高齢の方もたくさん来られるし、車椅子対応などバリアフリー要素も考え、階段ではなくスロープのほうが良いだろうとなりました。

鮓 小桜(神戸市灘区)


そのスロープも、単純に「必要だから」という理由でスロープを配置するよりも更に一歩踏み込んで、スロープがあるからこそできることは無いだろうかという発想に変えて考えを膨らませました。

その時に私が参考にしたのは「茶人が茶室に向かうためのアプローチ」でした。お客様がアプローチを通って店内に入った瞬間、今回のデザインの主役となるカウンターがよりドラマチックに見えることを狙って、店舗入口の位置を工夫しました。

リノベーションの過程では、やらざるを得ない工事というのが山程あります。ただ、その工事は仕方ないものとしてではなく、やってよかったと思ってもらえるように、機能面とデザイン面どちらも考え抜いて提案する。そういう今の姿勢の原点になる経験を、この現場ではたくさんさせていただいただきました。

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IDAジャーナルとは
住宅や店舗のリノベーションを手がける IDA DESIGN(アイディーエーデザイン) のコラムです。 リノベーションの基礎知識や、デザインやインテリアに関することを代表ブログでお届けしています。 コラムを通じて、住宅リノベーションの知識を深めつつ、私たちのことを知っていただけたら嬉しいです。

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